一般財団法人オートレース振興協会 様

全国のオートレースファンのために絶対に止められないシステム

センター基幹システムのクラウドシフト事例

公営競技業界のセンター基幹システムをオンプレミスからパブリッククラウドへ移行し、
全面刷新するプロジェクトを受託。
高可用性が求められる大規模システムのクラウドシフトを実現。

提案背景

7年に1度の周期で訪れるオートレースのセンター基幹システムのシステム更新。今回、その3回目の更新タイミングを迎えたシステムについて、オンプレミスで稼働していた大規模なシステムをパブリッククラウド(AWS)へ移行する、最大60名体制におよぶ大型プロジェクトを受託。
オートレース業界では前例のないクラウドへのシステム全面移行を実現。

Auto Race × AWS Amazon Web Service

オートレース基幹システムの概念図

オートレース基幹システムのシステム構成は、概念図の通り。
今回、弊社で担当したのは、赤枠内の「競技系システム」、「情報系システム」、「場間場外システム」の3つの業務カテゴリ。

オートレース基幹システム概念図

①競技系システム

レース場に設置されたクライアント端末により、レース場の運営スタッフが競技に関する各種情報を入力し、センターの競技系サーバへ連携する。
レース場~センター間はクライアント/サーバ構成となる。
さらに、競技系サーバから、共同通信社様をはじめとした各メディアへの情報配信なども行う。

②情報系システム

ブラウザによる競技情報の閲覧など、ホームページ等の情報サービスをオートレースファンに提供する。
グレードレースではファンからのアクセスが集中するため、高いレスポンス性能が求められる。

③場間場外システム

レース場~センター間において、票数やオッズ、払戻金等の情報をリアルタイムでデータ連携する。
投票に関わる重要なデータを取り扱うため、高い信頼性が必要となる。
今回、オートレースシステムセンター(ASC)と記載された枠内のサーバ類については、本プロジェクトによって、一部を除きすべてAWSへ移管した。

クラウド・ネットワーク構成図

今回のクラウドシフトでは、原則すべてのサーバ類をマルチAZに配置し、冗長化を図った。各レース場からのアクセス回線やネットワーク機器も2重化されており、通信キャリアで回線障害が発生した場合でも、予備回線にて業務を継続可能である。 また、AWSにて障害が発生した場合でも迅速に検知が行えるようにLambda、CloudWatchを使い、外部のチャットツールへアラートを自動投稿する仕組みを構築。これによって、RTO(目標復旧時間)の短縮化を図った。

クラウド・ネットワーク構成図

本プロジェクトにおいて利用した主なAWSサービス

分類 利用技術
コンピューティング EC2, Lambda
ストレージ S3, Backup
データベース RDS, ElastiCache
ネットワーキングとコンテンツ配信 VPC, CloudFront, Route53, Direct Connect
開発者用ツール CodeCommit
管理とガバナンス CloudWatch, Auto Scaling, CloudFormation, Systems Manager, CloudTrail, HealthDashboard, Trusted Advisor
セキュリティ、ID、およびコンプライアンス Certificate, IAM, Secrets Manager, Oranizations, WAF & Shield
AWS コスト管理 Cost Explorer
カスタマーエンゲージメント Simple Email Service
コンテナ ECR, ECS
アプリケーション統合 EventBridge, Simple Notification Service
その他 EBS, Elastic Load Balancing, Transger Family

システム課題と対応策

今回、オートレースのセンター基幹システムの更新においては、お客様より課題や要望を詳細にヒアリングした上で、以下の通り課題の解決を図った。

①クラウドシフトによるトータルコストダウン

■クラウドシフトの目的
本プロジェクトにおいて、お客様のクラウドシフトの最も大きな目的はコストダウンである。
今回、既存システムにてデータセンター内に設置されていた多数のサーバ群をクラウドへシフトすることより、単純なハードウェアの初期費用や定期的な機器の更新費用を削減するだけではなく、データセンター利用料、ネットワーク回線利用料、サーバ管理に掛かる費用などを含めて、長期間のトータル的なコストダウンを実現した。

■公営競技業界におけるクラウドの優位性
公営競技業界では、レースの開催グレードによって、ファンのホームページへのアクセス数など、サービス利用状況が大きく変動する特性がある。この特性は、クラウドの伸縮自在な性質と非常に相性がよいと言える。 これまでは、ネットワーク回線容量やサーバ台数について、ピークに合わせて常に最大値で確保しておく必要があったが、クラウドを利用すれば、あらかじめ決められているレースの開催日程に合わせて、計画的にサーバ稼働台数を調整・変更することが可能となる。さらに、リアルタイムでの負荷状況や時間帯にあわせたオートスケールも有効活用し、安定的なファンサービスの提供とコストダウンを両立した。

計画的に稼働台数を調整 負荷状況によるスケールアウト

■AWSボリュームディスカウントの活用
センター基幹システムは年単位での長期契約締結を前提としているため、AWSが提供するリザーブドインスタンスやSavings Plansが大きな効力を発揮する。これによって、さらなるコストダウンを実現できた。

リザーブドインスタンス

1年間または3年間の利用を約束することで割引を受ける割引オプションの一つ。リザーブドインスタンスを購入することで、適用条件に合致したインスタンスに対して自動的に割引が適用される。

Savings Plans

EC2やFargate、Lambda、SageMakerの使用料を節約できる柔軟で新しい料金モデル。1年間または3年間にわたって一定の使用量 (例えば、1USD/時間) にコミットするだけで、その使用量に対して割引が適用される。期間中にインスタンスの変更等が行われたとしても、リザーブドインスタンスのようにプラン変更や買い直しをする必要がないというメリットがある。

②システム構成とアーキテクチャの最適化

■システム構成上の課題
既存システムでは、自然災害による広域障害時のBCP、機能追加や性能拡張のたびにサーバを増強して対応してきたことによる煩雑化など、システム構成上、いくつかの重大な課題があった。

  • 自然災害等でデータセンターが被害を受けた場合、業務を継続できない
  • 業務カテゴリをまたがって、複数の業務用途で共通利用されるサーバが存在する
  • 当初想定よりも重要度が高まっているにも関わらずコールドスタンバイとなり、復旧に時間のかかるサーバが存在する

■システム設計方針
上記のようなシステム構成上の課題を解決するために、本プロジェクトでは、以下の設計方針を採用した。

  • 業務カテゴリを改めて再定義した上で、各サーバの役割を明確化し、シンプルな構成に見直す
  • 広域障害に対する可用性を確保するため、クラウドについてはマルチAZを前提とする
  • 単一障害点を排除し、回線やネットワーク機材を含めて、すべてを最適な方法で冗長化する
  • 障害点毎に、切替および復旧方針、業務への影響レベルをあらかじめ定義しておく
  • 業務への影響レベルを考慮した上で、フェイルオーバー時間の目標値を定めておく

これらの方針によって、クラウドの恩恵を損なうことなく、広域障害にも耐えうる高い可用性を担保することが可能となった。

■採用アーキテクチャ
本プロジェクトでは、エンドユーザが慣れ親しんでいる既存システムの操作性を損なうことがないよう、画面UIの変更は極力避ける方針とした。一方で、採用するアーキテクチャについては全体的に最適化を行い、以下のような改善を図った。

  • クライアント/サーバ構成でのクライアント側機能は、レスポンスを重視しない機能を中心にサーバ側へ移管
  • クライアント/サーバ間のインタフェースには標準的なWEB-APIを採用し、疎結合なシステム構成を実現
  • 既存を継承する必要のない新規機能については最新技術を適用し、AWSマネージドサービスも有効活用

上記によって、今後機能追加が必要となった場合でも、クライアント側とサーバ側、それぞれの改修のみで対応可能な範囲を広げることが可能となった。

■外部システムとのインタフェース統一化
外部接続事業者とのインタフェースにおいて、これまでは新たな接続が必要となった場合、都度個別にデータセンターにWAN回線を敷設していたが、それらの統一を図った。
さらに、外部接続事業者の個別事情などによって外部インタフェース(電文、ファイルレイアウトなど)は複数のバリエーションを持っていたが、可能な限り統一を図った。こうした外部インタフェースの統一によって、将来のシステム改修においても、影響範囲を限定することが可能となった。

本プロジェクトにおいて利用した主なAWSサービス

分類 利用技術
開発環境 VisualStudio, VisualStudio Code, Intelli IDEA, Eclipse, Git, GitLab, SourceTree
WEB-API .NET Core, ASP.NET Core MVC, AdoptOpenJDK, Spring Boot, EntityFrameworkCore, Dapper, OpenAPI, xUnit.net
端末系 C#.NET Framework, C#.NET, Windows Forms, SAP Crystal Report, ComponentOne
サーバ系 RedHat Enterprice Linux, Amazon Linux, PostgreSQL, Oracle, PL/pgSQL, Nginx, Docker
情報系 Apache, PHP, Laravel, perl-CGI, JMeter
AWSインフラ系 Python, Node.js

③売上増につながる機能追加とブラックボックス化の回避

■ブラックボックス化の課題
システム開発や保守の現場においては、システム稼働年月の経過に従い、以下のような様々な要因によってシステムがブラックボックス化することがある。

  • 設計ドキュメントの最新化が追いつかない
  • 機能追加による度重なるソースコードの改変で可読性が低下してしまう
  • 採用技術が老朽化してしまう

このためオートレース業界においても、オートレースの売上増につながるシステム改修や機能追加であっても、ブラックボックス化によって対応コストが膨れ上がってしまう傾向があり、考えたように費用対効果が出せないという課題があった。

■「技術的負債解消」に向けた取り組み
今回、このような「技術的負債」の問題を解消すべく、システムの全面刷新に併せて、クラウドシフトやアーキテクチャの見直しを進めると共に、以下の通り生産性や保守性の改善にも取り組んだ。

  • 設計書ドキュメントの全面最新化
  • 開発標準・規約、コーディングルールの整備
  • ソフトウェア劣化を防ぐためのリファクタリング&リビルド
  • 老朽化した開発環境、開発言語、ビジネスロジックの一新
  • クラウドに精通したITエンジニアの育成

技術的負債をコントロールして、最適なシステムを保持するという観点でも、本プロジェクトにおける成果が将来に渡って効力を発揮すると考えられる。

今後は、ブラックボックス化によるコスト増大の問題が解消され、これまで以上にシステム改修や機能追加をスピード感をもって実現していくことが可能となる。

まとめ

今回、クラウドシフトの実例として、弊社で実施した公営競技業界の案件をご紹介させて頂いた。
昨今、企業の情報システムを新規に構築、あるいは更新するにあたって、クラウドを優先的に利用する「クラウドファースト」という考え方が広まっている。DX(デジタル・トランスフォーメーション)を支えるテクノロジーとして、今後はクラウド・コンピューティングやエッジ・コンピューティングは避けては通れない重要なインフラ基盤となる。
これからは公営競技業界に限らず、どのような業種・業態であっても、スピード感をもって時代の変化に柔軟に対応できるシステムが必要となる。

そのような変革への第一歩において、弊社が保有するクラウドに関する専門的なスキルやナレッジが役に立つと考えている。

今後、業務基幹システムのクラウドシフトをご検討のお客様がいらっしゃいましたら、是非とも弊社営業までご相談ください。

キーワード
クラウドリフト、クラウドシフト、クラウド・ネイティブ・プラットフォーム、サーバ仮想化、コンテナ、シンクライアント、AWS環境構築、AWS障害自動検知、Webサイトの負荷分散、高可用性システム構築、システムマイグレーション、クライアント・サーバシステム構築、Webシステム構築、DB構築、バッチシステム構築、TCP/IPによるデータ通信システム構築、セキュリティ対策、infrastructure as Code(iaC)、IoT、AIクラウドサービス等

一般財団法人オートレース振興協会

70年以上の歴史を持つ、公営競技であるオートレース。
川口、伊勢崎、浜松、山陽、飯塚の全国5カ所にオートレース場があり、ほぼ毎日オートレースが開催されている。
オートレース振興協会様は、オートレース等の健全な発展を図るため、競走車・部品の開発と改善および供給、モーターサイクルスポーツに関する調査研究、普及のための広報活動、レースを支える情報システムの研究開発および運営管理など、多岐にわたる役割を担っている。

東京都品川区西五反田2丁目11-17 HI五反田ビル6階

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